入院と身元保証人


■身元保証人がいないことによる入院拒否は違法

 

 入院することになって、連帯保証人、身元保証人、身元引受人を求められたことがあると思います。しかし、いないからと言って入院拒否をされたことはありますか?

 2018年4月27日、厚生労働省医政局医事課長から各都道府県衛生主管部(局)長宛に「身元引受人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」という通知が発出され、「身元保証人等がいないことのみを理由に、医師が患者の入院を拒否することは、医師法19条1項(注1)に抵触する」とし、そのような事例があった場合は「当該医療機関に対し適切な指導をお願いする」としています。

 身元保証人等がいない場合、入院拒否は違法であることを知っておいて、「いない」とはっきり言いましょう。話し合いは多くの場合医師とではなく、事務方(メディカルソーシャルワーカー)とですから、いろいろなケースに詳しい向こうから選択肢を提案してくれることと思います。

 

注1) 医師法(昭和23年法律第201号)第1項は「診療に従事する医師は、診療治療の求があった場合には、正当な事由が無ければ、これを拒んではならない。」と定めている。

  

■身元保証人を求められる理由、解決策とは

  

 身元保証人に求める理由は、①支払いの保証、②医療行為の同意、③生死にかかわらず退院時の身柄等の引き取りです。解決策を考えてみましょう。

  

①支払いの保証について 

 支払い力もついては、以下のような提案が病院側から出された例がありました。

・クレジットカード決済 

・入院時に入院保証金や預託金の差し入れ

・経済的に困窮している場合は、生活保護の申請を提案

 それに対して、クレジットカードを持たない場合は民間の医療保険に入っていることを担保にした人、銀行の残高を通知したという例もあります。

 現在は、保険適用外の医療行為になる場合は、その説明と予定額が告知されます。そしてその行為に対する承認書にサインを求められます。病院側が患者の意に反して、高額な医療費負担を強要することはないと考えます。

 公的健康保険の加入者であれば、病院側は医療費支払いについての不安は抱いていないと思います。(㊟保険料の未払いで資格を喪失しないように。支払いに困ったときは行政の担当窓口にその旨を届けましょう)

 

②医療行為の同意について

 医療行為の同意については、かつては家族や血縁関係者の同意が必要と考えられていましたが、現在はできる限り本人の意志を尊重するという方針になっています。したがって、本人が「事前指示書」や「エンディングノート」などを記載していないか確認する病院もあります。それらが存在しない場合には、病院の検討チームが判断を下します。

 医療行為の承認について成年後見法の活用も考えられていた頃もありましたが、身元保証人や成年後見人等、第三者に委ねることはしないというのが現在のようです。

  

③退院時の身柄等の引取

 死亡した場合、単身者のみならず、少子高齢化、核家族化の意識が強い現在、血縁間でも遺体引き取りが拒否されることが多くなっているようです。その場合は行政が「行旅死亡人」として引き取り、埋葬します。放置されることはありません。

 では、病状が改善し、入院治療の必要がなくなり通院可能な状態になったものの看護・介助が必要な状態での退院時、という場合の身柄引き取りはどうでしょうか。このような場合、メディカルソーシャルワーカーが相談に乗ってくれます。

◎高齢者の場合

 介護保険制度ができてから支援体制が充実してきました。居住地の民生委員や地域包括支援センターにつなげることでほとんどが解決しています。

◎年齢的・症状的に介護保険制度に該当しない場合

 社会福祉協議会の日常生活自立支援事業の相談窓口では、判断能力が不十分な場合でも、自身の契約について理解でき、在宅生活を継続している人を対象に、社会福祉協議会が日常生活自立支援事業を実施し、利用者の権利擁護支援を実施しています。判断能力が不十分な人とは、認知症と判断された高齢者、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳を有する人に限るものではありません。在宅生活を継続する人で、日常的な金銭管理の支援が必要と思われる人については、退院にあたって、日常生活自立支援事業の利用について社会福祉協議会に相談することで解決をするという方法もあります。

 このように支援制度は年々充実してきています。10年前、20年前に受けた、あるいは聞いた事例だけを信じずに、公的支援に持ち込んでみましょう。

 退院後のことは、入院中に手配することになります。自分の居住する自治体にない病院に入院している場合は、自分の自治体の社会福祉協議会の日常生活自立支援事業の相談窓口から担当者を、または担当民生委員を派遣してもらいましょう。(病院のメディカルソーシャルワーカーが、自分の居住地ではない自治体の社会福祉協議会に所属する社会福祉法人に繋いだためにトラブルになった例が当会員から報告されています。)

 

■身元保証人を求められる事由は解決済みでも

 

 上記のように身元保証人等に求められる事由は現在ではほとんど解決可能ですが、現場では身元保証人等に代わり緊急連絡先を求められることが多くなってきています。なぜかと言えば、身元保証人等が担っていた事柄を手早く追行するために、本人に代わり情報提供をしてもらうためです。メディカルソーシャルワーカーとしては緊急連絡先がないと「行旅病者」、「行旅死亡人」として公的手順を取ることになります。

 家族や勤め先を緊急連絡先にできない人は、病人になったとき、不本意な状態に置かれることになります。未だ決めていない人は準備をしておいた方がよいでしょう。

(単身けんでは、首都圏については「緊急連絡先」と「菩提寺」はご推薦できます)

  

※本記事は『単身けんニュースレター vol. 175』(2020年11月30日号)の特集を再編集したものです。

 

記事一覧はこちら